医者になって五十年余り、私は患者さんたちに「小児科は病気を治すところではありません」といい続けています。当然のことながら、病気を治すのは子ども自身であり、それも治すのではなく治るのです。
子どもが治るよう、衣食住全般にわたって生活環境を整えるのが両親はじめ家族の人々であり、地域の人々です。そうした人々に、医者は自らの医療体験に基づいて生活環境を整えるように助言するのがその責務です。つまり、よきアドバイザーとしての大切な資質であると考えています。その際に、患者と医者の間にしっかりとした対話が保たれていなければなりません。つまり、良い人間関係を形成する事です。しかも、子どもと医者、家族と医者、子どもと家族の目の高さが、それぞれ同じ高さに保たれていなければならないのです。
こうした好ましい人間関係の妨げになっている言葉があります。ごく当たり前のように使われている「医者にかかる」という言葉です。医者にかかるというと、医療に関するかなりの部分を医者に任せるという気持ちが生じます。その結果、ともすれば一方通行で医者の言いなりになり、良い人間関係が形成されにくくなってしまいます。
そうならないように、医者との対話を円滑にして、その姿勢を次の世代にしっかりと伝える事が必須になります。
その点に関して、私は「育児はその人の生まれる二十年前から始まる」といい続けています。育児や医療に関してしっかりとした対応ができるお父さんお母さんを作るには二十年の歳月が必要であるという事です。
こうした観点に立って、医者との良い人間関係を築き上げてください。命は繋がっているのです。その良い人間関係を次の世代にきちんと譲り渡していただきたいものと願っております。 |